シアターリミテ

シアターリミテ|京都を拠点に活動する演劇集団

シアターリミテ

第11回勉強会Study group

「絵本『トミーとおとうさんの旅』から見える世界」を
振り返って

2021年10月10日(日)担当:ナカムラ チエ

愛する息子に向けた、父親の魂の叫び(長谷川の感想)

 今回の勉強会担当の中村は、勉強会のテーマに、どうしてこの絵本を選んだのか? タッチは雑だし、物語の筋も今ひとつわからない。なんとなく分かるのは、子どもの将来について、期待と説諭を行っていること。どうしても違和感が残り、反則と思いながらも、事前にネットで調べた。

 すると、この絵本が極限状況の中で描かれた作品だということが分かった。  第二次世界大戦中のチェコスロバキア。強制収容所に送られたユダヤ人のトミーの父親は、幼い息子のために、限られた画材で、塀の外の世界を描く。戦争がなければ、こんな楽しみがある。こんな美味しいものが食べれる。こんな素敵な恋もできる。こうした父親の魂の叫びは、数十枚の絵となった。しかし、そうした行為は許されざるものだった。やがて作品はナチスに発見され、父親はアウシュビッツに送られ、命を落とした。

 ナチス政権下での抑圧された生活を伝えるこの絵本は、悲惨な日常をそのままには描かない。夢とユーモアにあふれ、あの雑に見えたタッチも、力強いバイタリティーに感じる。こんな絵本があったとは全く知らなかった。まるで「アンネの日記」のようである。 次回公演「硝子の檻の共犯者」は、まさにこのナチス統治下のドイツが舞台。そこに向けた中村の意気込みを感じた勉強会だった。

言葉も重要という教訓 (中村の感想)

 今回資料として取り上げた「トミーとお父さんの旅」は、絵本「トミーが三歳になった日(ほるぷ出版)」の中に出てくる、お話です。 1944年ナチスドイツ占領下の当時チェコスロバキアにあったテレジン強制収容所で生活していた幼いトミーとその家族の生活を事実を もとに書かれた絵本です。この絵本に出てくる挿絵は画家であったトミーのお父さんであるベジュリフ・フリッタさんが強制収容所の 中で密かに描き隠されていた絵で、戦後、この絵とトミーの周囲の方の証言をもとにオランダの作家ミースバウハウスによって絵本化されました。

 この本の存在を知り、みんなに紹介したいと思いました。 何も知らされず読むとどのような感想を持つのだろうかと興味があり、何の予備知識もなく 「トミーとお父さんの旅を読んで感想をもちよってください。」というのが課題でした。 共産圏/人種差別/ 嘆き 悲しみ 希望 という感想が出され、 単純なようで抽象的なストーリーの中にも 違和感や物悲しさを感じる何かがあり、絵や言葉のメッセージ力を感じることとなりました。

 またトミーのお父さんが画家だったことから、この時代のアートシーンを調べてみたところ、なんとも興味深いチェコアートの歴史を垣間見ことになり、 勉強会準備の段階ですっかり魅入られてしまった。 これはみんなにも紹介せねば!でも学校の美術の授業みたいになっては面白くないし、、と思い、有名なチェコアートの写真を資料にして、 ごちゃごちゃ言わないから、とりあえず見て!衝撃的やから!!と資料渡すだけ形式にしたのですが、、これが間違いだった。 後からもっとこの時代のアートについて、知識的な説明がほしたかったとのコメントもあり、私が感じることと同じように仲間も感じると思うのは、 間違いで、わかってもらうには言葉も重要という教訓となったのでした。まだまだ勉強会修行を積む、中村でした。

ミニシアターのような独立性と表現性の高い舞台を追求。

社会人劇団として、同年代の大人の観劇に耐えうる社会性と娯楽性を追求した舞台を目指しています。
一見分かりやすそうでありながら、すべては分からない。
映画で言えばシネコンのような大衆的なものではなく、
ミニシアターのような独立性と表現性の高い舞台を追求しています。

シアターリミテ 主宰 長谷川 源太