シアターリミテ

シアターリミテ|京都を拠点に活動する演劇集団

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第4回勉強会Study group

『松谷みよ子の童話の世界』を振り返って

2020年6月27日(土)担当:長谷川 源太

何故、いま『松谷みよ子』なのか?

童話(児童文学)にハマっている。
先日、古本屋で偶然、松谷みよ子の「ちいさいモモちゃん」を手にした。モモちゃんが生まれて、妹のアカネちゃんとともに成長していく過程が、母親の日常の視点で描かれている。童話といえば、きれいで美しい夢物語のように思い込んでいた私だったが、本作を読んで認識を改めた。松谷自身の子育て体験をベースに書かれたこの本では、モモちゃんのパパとママに夫婦の危機が訪れることを「死神の到来」として描いたり、パパとママが離婚した後、パパがオオカミとしてモモちゃんの妹アカネちゃんのところに遊びに来るなど、隠喩的に描いたりしているのだ。読者である子どもを信じ、厳しい現実を正面から取り上げようとする松谷の覚悟が見て取れる。劇団員にもこの松谷作品を読んでもらいたく、今回題材としてこの「ちいさいモモちゃん」取り上げた。

劇団員に聞いた「ちいさいモモちゃん」の読後感は、「可愛らしいにとどまらない、なにかを感じる。陽でなく陰(影)でザワザワするのは何か?」「子どものころ読んだことのある本。(自分の)読み方が大人目線になっていた」など気づきがあったようだ。

『モモちゃん』以外に、もう1冊

更にもう1冊、松谷作品を自由に選んでもらったので、その感想も聞いてみた。

郷は「屋根裏部屋の秘密」を読んだとのこと。この作品は、戦中の731部隊にモチーフを得た作品。「ミステリーを超えた恐ろしい本。これが児童文学に存在するのか‼ この本の印象が強すぎて、先に読んだモモちゃんがとんでいってしまった」とのこと。  中村は「現代民話考」。「松谷みよ子が民話を採集しており、その中に木霊をモチーフにした作品があったので、興味をそそられた」とのことだった。

ちなみに私は「ふたりのイーダ」を読んだ。郷の「屋根裏部屋の秘密」に繋がる「直樹とゆう子シリーズ」の第1弾で、広島の原爆に着想を得ている。直接的には原爆を描かないものの、日常の世界にふと入り込む異次元の視点を通じて、戦争の愚かさ、恐ろしさを伝えている。郷の話では「図書館の先生が子どもに勧めたいけど、戦争の恐ろしさ、テーマの重さゆえ、推薦をためらう本」だそうだ。

そもそも児童文学とは何か?

このように松谷みよ子はそれまでの童話や児童文学の枠に収まらず、戦争や社会問題などを積極的に作品のモチーフとして取り上げる一方で、民話の掘り起こしなども精力的に行い、伝統的な児童文学の枠の拡張と深化に取り組んだ作家といえる。そうした真摯な姿勢が、大人の鑑賞力に十分耐えうる作品として昇華しているのだと思う。

ここまできて、「大人の鑑賞力に耐えうる児童文学とは、児童文学なのか?」と疑問が沸く。それは既に「成人文学」(という呼称があるかどうかは知らないが)ではないのか。そもそも児童文学とは何だろうか。

劇団員からは、「子どもの心を動かしつつ、子どもが子どもなりに内省のきっかけになる話」「多感な子どもの時期にこそ植え付けなければならないものを、分かりやすく子どもに伝える文学」などの意見が出た。いずれも言い得て妙な感じである。

社会矛盾を正面から見据え、それらを一貫して子どもたちに提示してきた松谷みよ子の作品群

「兎の眼」「太陽の子」などで知られる灰谷健次郎は、「社会の歪みやそれに伴う苦痛をより受ける被害者の立場に立たされるのは、子どもや若者たちである」「人間をこまかく見ることは、社会を深く洞察することにつなが」り、「鮮烈に人間復古させ得る可能性を持った文学のジャンル」と述べている(新潮現代童話館(下)解説)。文学の商業化、没個性、人間の頽廃が叫ばれて久しい。演劇も文学も、社会的な歪みから目を背けず、弱者の視点を忘れないで、真摯に自分の生、他人の生を描くことが重要ではないか。こうした点においても、松谷みよ子の作品群は、社会矛盾を正面から見据え、それらを一貫して子どもたちに提示してきたと言えるのではないか。

ちなみに松谷みよ子の生涯を追っていて、絵本作家のいわさきちひろといくつか共通点があることに気が付いた。二人とも終戦直前に長野に疎開し、そこで人生の転機となる師匠や伴侶と出会い、平和の重要性を作中で描いているのだ。実際、絵本「つるのおんがえし」(1966年)から「あかちゃんのうた」(1971年)まで合計5作品にて、松谷が作、いわさきが絵というコンビで作品を発表しているのは興味深かった。

この記事をご覧の皆さんには、ここで紹介した作品以外にも、以下のような本をご紹介させていただく。是非、手に取ってご一読いただきたい。

  • 《ご紹介図書》
  • 新潮現代童話館1・2(今江祥智・灰谷健次郎編)新潮文庫
  • 松谷みよ子童話集(松谷みよ子著)ハルキ文庫

なお、次回、私がこの勉強会を担当するのは9月。課題には、あの倉本聰の伝説のドラマ「北の国から」が、満を持して登場。乞うご期待。

ミニシアターのような独立性と表現性の高い舞台を追求。

社会人劇団として、同年代の大人の観劇に耐えうる社会性と娯楽性を追求した舞台を目指しています。
一見分かりやすそうでありながら、すべては分からない。
映画で言えばシネコンのような大衆的なものではなく、
ミニシアターのような独立性と表現性の高い舞台を追求しています。

シアターリミテ 主宰 長谷川 源太